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赤い糸で結ばれていなかった?

昼休み、気持ちの良い天気なら近くの公園のベンチで、
日向ぼっこを兼ねて好きな本を読むのが習慣である。

ある日、ペコリと頭を下げながら、二人掛けベンチの開いている所に女性が座った。
彼女は何をするでなく、辺りを見まわしたり、スマホを取り出して触ったりしていた。
会社に戻る時間になって私は腰を上げ、彼女に小さく会釈した。
彼女がそれに返してくれた時、チラリと彼女を見た。
アラフォーかな。40歳にはなっていない。綺麗な女(ひと)と思った。

それから、何度か同じシチュエーションで彼女と出会った。
ベンチに座る彼女が笑顔になり、
そのうちに「こんにちわ」と挨拶が入るようになり、
やがて本のこと、コロナのこと、仕事のことと、世間話も始まった。
この頃は出会えると「良かった。今日はお会いできました」と言ってくれる。

ここまで話を進めると、恋の始まりを思う人も多いだろうけれど、
私は還暦を半ば以上過ぎている。
いや、恋に年齢はないと仰るかもしれないが、
私はそこまで図々しくも自信家でもない。
全くそんな邪な期待は抱いてはいない。

しかしある時、
「しばらくです。やっとお会いできました。ってまるで恋人に会ったみたい」
などと明るく言われた時には、さすがにドキリとした。
そして最近では別れ際に、
「今日はお会いできて良かったです」という彼女のセリフで必ず締め括られる。

私は不思議に思う。不可解でさえある。
このじいさんに会うのを、彼女はどうしてそんなに楽しみにしてくれるのか
彼女は結婚しており、艶っぽい話にはなるわけがない。
いや、たとえ独身であっても、である。

私には長年連れ添った妻がいる。
今更その妻に悲しい思いをさせるわけにはいかない。
などと考えること自体、
もしかしたら私自身が期待しているということではないのか、と愕然とする。

しかしまあ、いずれにしても、冷静に考えてあり得ない話である。
でも・・、と思う。この出会いが、もう20年前だったらどうだろう。
その時、もし結婚していなかったとしたら、
私は「今度、食事でも?」と誘ったに違いない。

赤い糸とはこういものかもしれない。今回は結ばれていなかったのだろう。
もちろん彼女とは今、良いお友達である。